2011年8月3日水曜日

演奏会ご報告


初めてポルトガルの古都リスボンに行ってきました。呼んでくれたのは、友人で楽器製作者のヘールト・カルマン氏です。


カルマン氏は、オランダ人のチェンバロ、クラヴィコードの名工です。現在、(天気が良く食べ物のおいしい)ポルトガルに(天気が悪く食べ物のまずいオランダから)移り住み、リスボンの郊外で静かに楽器製作に専念しています。彼の工房の手伝いと、新しく出来上がったクラヴィコードのお披露目コンサートを工房で友人を招いてするということで、新品のクラヴィコードを何度も調律しながら、プログラムを準備しました。


クラヴィコード製作は、一見チェンバロよりも簡単そうですが、実際に優秀なメーカーはほとんどおらず、楽器の展示などを見に行っても良い楽器を見かけることはまずありませんが、カルマン氏の楽器は非常に優れたクオリティーの楽器で、私の持っている大型のクラヴィコードはたびたびレオンハルトが好んで演奏会で使用してます。


今回演奏した楽器は、ライプツィヒにあるゲルシュテンベルクというジルバーマン系統の製作者の楽器(1763年)をコピーしたものです。音域はC-e3のフレットなし。バッハを演奏するのに最適の楽器でした。演奏したのは、平均律第1巻から1番と2番のプレリュードとフーガ、インヴェンションとシンフォニアから抜粋、ヴェックマンの組曲ロ短調、フランス組曲第1番ニ短調などです。新品でしたが、非常に美しく鳴り、表現の幅も広く、これから1年もすればかなりの楽器になると思われました(新品は弦が張りたてで弾きにくく、音の伸びが多少少ない)。会場には20人ほど(クラヴィコードにはちょうどいい)集まり、コンサートの後にはワインと軽食でパーティーとなりました。


ちゃんとオリジナルどおりに製作されたクラヴィコードは、演奏家にとっては試金石となります。小手先だけのテクニックでは、そもそも音を出すことすらできません。0.1ミリ単位のコントロールが必要になります。現在、弾きやすいようにアレンジした楽器が横行しています。確かに鍵盤の沈みをオリジナルより浅くしたり、弦を細くすれば、だれでも簡単に弾ける楽器にはなります。が、表現の幅が極端に狭くなり、そうした可能性の少なく、カタカタとキーの音ばかりが聞こえる粗悪品では、クラヴィコードの真髄を味わうことは到底不可能です。というわけで、長野で皆さんにバッハが愛奏したといわれるクラヴィコードのコンサートを楽しんでいただける日が来るように、努力して行きたいと考えております。


風間芳之