2010年5月27日木曜日

パントミム















パントミムはリハーサルをしない(風間)


パントミムというアンサンブルについて知っていただくためにはとにかく演奏をお聞きいただきたいと思います。私たち三人は、ほぼ同世代の音楽家で、オランダに留学し、現在も在住しています。ガンバのジョシュとは、学生時代からの長い付き合いです。ヴァイオリンのマイテとは、去年の結成のときに知り合ったばかりですが、まるで十年来の知己のように意気投合し、昨年のツアーではまじめな人生論から、ワイングラスを傾けながらの爆笑論議まで、楽しいときをすごしたものでした。

演奏会の準備は、普通リハーサルで行います。リハーサルでは演奏曲の細かい部分を議論しながら、長い時間をかけてコンサートに向けて準備をしますが、ご想像のとおり、個人主義者の多い音楽家が三人四人と集まれば、当然意見が対立するわけです。そこで、懇願、恐喝、圧力、疎外、誘惑、干渉、譲歩など、あらゆる手段を使って何とか合意にこぎつけるわけですが、その結果できあがる演奏が、練習を重ねれば重ねるほど中庸な妥協の産物になる危険性があることは、音楽家ではない皆さんにもお分かりかと思います。

パントミムが集まって演奏の準備をするときには、このようなことがまったく起こらない。これは、ちょっとした奇跡のようなものです。言い方を変えれば、パントミムは集まって音楽を演奏はするのですが、リハーサルはしないのです。ちょっとした意見のやり取りなどはしますし、あちらこちらのほつれを修正することはあるのですが、いわゆる普通の室内楽のリハーサルとは程遠いものです。

 21世紀ヨーロッパで音楽家として生活するということは、いやおうなしに二、三の外国語を身につけ、世界中に知人友人ができ、国際人になることを意味しています。マイテはバスクの、ジョシュはアメリカ合衆国の、私は日本の出身で、世界のまったく異なる地域の人間が集まって共同作業ができるということ自体、宗教・政治・文化・民族的対立が深まっていくかに見える現在では、大変貴重なものだといえるのではないでしょうか。

 パントミムは、個性も考え方も違う人間が、お互いが自分自身であるための空間を許しながら音楽作りをします。私は個人的に、これが17・18世紀の音楽家たちの仕事の仕方であったと確信しています。当時の楽譜を見ると、現代の演奏家がするような「書き込み」(演奏上の約束事や変更などを覚えておくため、リハーサル中に書き入れるもの)がまったくないのです。そのことは、当時の音楽家が、リハーサルや演奏というものを現代の演奏家とまったく違った風に捉えていたことを意味しているのだと思います。



パントミム

2009年、ラルブル、チータム、風間によって結成された、若い音楽家による新しいアンサンブル。スロヴェニアのSeviqc Brežice音楽祭に出演、ラモのコンセール全曲のツアーでデビューし、好評を博す。オランダの伝統ある古楽祭である、ユトレヒト音楽祭に2010年同じくラモのコンセール全曲演奏で出演予定。今後の活躍が期待されるアンサンブルである。


Pantomime

Rameau: Pièces de clavecin en concerts

28 August 17.00h Pieterskerk(Utrecht Early Music Festival)

http://www.oudemuziek.nl/